「コロナ禍での歯科治療」会長 小菅 玲より

2020年6月26日更新
(一社)仙台歯科医師会 会長 小菅 玲

(一社)仙台歯科医師会
会長 小菅 玲

「コロナ禍での歯科治療」

この度の新型コロナウイルスの広域にわたる感染拡大により、日本は緊急事態宣言が出され、あらゆる分野、地域において混乱と不自由を強いられているところであります。さらには、健康を害し、闘病、療養中の方、また、経済的に大変苦しいお立場にある方におかれましては心よりお見舞い申し上げます。
緊急事態宣言は解除されましたが、依然としていわゆる「三密」を避けることにより感染リスクを下げる行動が望ましいとされ、政府においては「新しい生活様式」の提案がなされております。あくまでも協力要請とはしながらも、判断の基準は漠然としており、各々の判断では難しい局面もあるかと存じます。
そのような状況の中、歯科医院への通院もどうして良いのかわからず、通院をためらっていらっしゃる方も多いと聞き及んでおります。
当会は、少しでも通院の判断のお役に立つことができればと考え、以下のメッセージをお送りします。

平素かかりつけ歯科医をお持ちの方、新型コロナウイルス蔓延以前より御通院の方におかれましては、かかりつけ歯科医の判断をお聞きください。「今は痛くないから」「メンテナンスだけだから」といった自己判断はよくありません。
治療の中断は、治癒の中断ではありません。治療をストップした段階で、当初予想された治癒が保証されることはなく、概ね後戻りか、悪化する危険性があります。歯を抜いたままですと、嚙み合わせが乱れます。歯根の治療が途中であれば、再び内部で細菌感染が起こりえます。入れ歯の製作が途中であれば、最初からやり直す場合もあります。
ご自分のお口の中の状態・治療の経過などをかかりつけ歯科医と話し合い、通院の間隔を長くする、きりの良い段階までといった治療計画の見直しをしてもらうことで、安心につながると思います。

また、メンテナンスで一ヶ月に一回、あるいは三ヶ月に一回の通院となっている方でも自己判断はお勧めできません。歯科医師はメンテナンスの頻度を漠然とお伝えしているわけではありません。個々のお口の中の環境、全身疾患の有無、歯周病の進行度合い、ブラッシングの熟達度等を勘案し、ご案内しています。

そうは言っても報道等では歯科医院での新型コロナウイルスの感染リスクが高い、歯科医院は唾液やエアロゾルが多く、怖い。といった報道もなされて、心配で通院できない方もいらっしゃると存じます。
実際の感染リスクについては、収束後の詳しくデータを分析してからの回答しかお伝えのしようもございませんが、今現在、歯科医院を中心としたクラスター感染は一件も確認されておりません。唾液・血液に接することの多い歯科医院は、常日頃より感染するリスクを念頭において診療を行っています。マスクやフェイスガード等の着用、頻繁な手洗い、アルコール清拭、切削器具の滅菌の徹底などが日常的に行われております。
こうしたことが今般の非常に感染性の高い新型コロナウイルスにおいても、非常に有効に感染予防に働いていると考えられます。
さらに、歯科医院の完全予約体制による患者さん同士の距離も要因として考えられます。一人の患者さんに対しての治療時間の把握がしやすく、また、一般に時間が長いため多くの歯科医院は予約制を採っていることが多いと存じます。
緊急事態宣言を受け、いつも以上に予約時間の間隔をとり、換気を行い、三密を避ける対応を積極的に行っている歯科医院は少なくありません。

新型コロナウイルスへの治療法、ワクチンの開発といったニュースも伝えられるようになってはきましたが、やはり個々の免疫力アップが大事です。口腔内環境の悪化はそのまま免疫力の低下、感染リスクの増加にもつながります。十分な食事を摂れなければ気力・体力の低下が起きます。口腔内の細菌数が増えれば、肺炎等の罹患の確率が上がります。
ご自身で口腔内管理ができない在宅患者さん、障害をお持ちの患者さん。糖尿病、高血圧症、心疾患をお持ちの患者さん。むし歯・歯周病の重篤化が危惧されます。

歯科の医療現場でもアルコール、マスク、フェイスシールド等の医療用品・衛生用品の品薄状態が続いています。場合によっては急を要しない治療については先に延ばし、あるいは応急処置といった治療しかできない場合もございます。それでもどうか、ご自身で判断せず、ご自身の健康のためにかかりつけ歯科医にご相談ください。
一日でも早く平穏な日常が訪れることを祈念いたします。

令和2年7月